心の疲れと活性酸素

強いストレスにさらされやすい現代社会。過剰なストレスは体にも心にも大きな影響を及ぼし、誰もが「寝つきが悪い」「何もしたくない」「食欲がない」といった精神疲労やうつ状態を生じる可能性があります。
うつ状態は心の弱さが原因ではなく、ストレスを抱えながら心身ともに疲れている状態が続き、神経細胞の働きが低下した結果生じるもので、うつ病とは異なります。このような精神疲労やうつ状態には、まず休養が大切ですが、疲れている脳への栄養補給も欠かせません。

脳の働きのしくみ

精神疲労・うつ状態に対処するためには、まず脳の仕組みを理解する必要があります。
私たちの脳には1000億個を超える神経細胞が網目のように張り巡らされています。脳内にあるこれらの神経細胞に「眠い」「食欲を出す」「やる気を出す」などの情報が流されることで、私たちは寝つくことができたり、食欲が出たり、やる気が出たりしているのです。

情報を運ぶ「渡し舟」神経伝達物質

神経細胞と神経細胞の間にはすき間がありますが、このすき間を通って情報を流すためには、情報を運ぶ「渡し舟」が必要になります。
神経細胞間の「渡し舟」は神経伝達物質とよばれ、「眠気」「食欲」「やる気」などの情報を流す働きをしています。
神経伝達物質は、食べ物から摂取したアミノ酸、ブドウ糖などの栄養素から脳内で作られており、代表的なものにドーパミンやセロトニンなどがあります。

神経伝達物質の不足が精神疲労・うつ状態の要因

精神疲労・うつ状態とは、情報を運ぶ「渡し舟」である神経伝達物質が不足傾向にある状態です。
神経伝達物質が脳内で不足すると、必要な情報が円滑に流れなくなり、「よく眠れない」「寝つきが悪い」「何もしたくない」「やる気が出ない」「食欲がない」といった症状に陥りやすくなります。

脳内の渡し舟の不足はうつ状態を助長する

神経伝達物質としてはドーパミンやセロトニンが知られていますが、近年、ATP(アデノシン3リン酸)という物質も神経伝達物質であることが発見されました。
脳内でATPが不足すると情報がスムーズに流れず、「何もしたくない」「やる気が出ない」「寝つけない」といった状態になりやすくなります。
脳内のATPは脳内に取り入れられたブドウ糖からのみ作られますが、うつ状態の方は健康な方に比べて脳でのブドウ糖代謝が30%も低く、ブドウ糖から効率よくATPが作られていないことがわかっています。
このことから、脳内のATP不足が、精神疲労やうつ状態を引き起こす大きな原因のひとつであるといわれているのです。

脳内情報の「渡し舟」神経伝達物質ができるまで

体内に取り込まれた食物中のアミノ酸やブドウ糖は脳に取り込まれます。
次に、アミノ酸(L-フェニルアラニン・トリプトファン)やブドウ糖は、酵素の働きにより神経伝達物質へと作り変えられていきます。
酵素はミネラル・ビタミンが一緒に存在することではじめて働くことができ、アミノ酸・ブドウ糖を神経伝達へと変化させます。

うつ状態とはエネルギーが不足した状態

2008年に放送されたNHKの「きょうの健康」でも「うつ病は基本的にエネルギーが不足する病気です」と解説していましたが、心身ともにエネルギーが不足することで、「感情がわかない」「意欲がなくなる」などのうつ状態を生じます。
うつ病治療で休養を重視する理由は、エネルギーを作り出す体力を回復させるためです。

ATPは「渡し舟」であり「エネルギー」でもある

脳内のエネルギーはブドウ糖からのみ作られますが、ブドウ糖から取り出されたエネルギーは、ATPに蓄えられてからエネルギーとして利用されます。
実はこの「エネルギー」のATPと、情報を伝える「渡し舟(神経伝達物質)」のATPは同じもの。ATPは一人二役を担う優れものなのです。

脳内でエネルギーを作るためにはミネラル・ビタミンが不可欠

ATPを作り出すためには、亜鉛・セレン・鉄などのミネラルと、神経ビタミンといわれるビタミンB1・B2などの働きが必要不可欠です。
したがって、脳内でミネラル・ビタミンB群が不足すると、ブドウ糖からATP(渡し舟+エネルギー)を作り出す力が低下し、ATP不足となって脳の働きが悪くなります。
つまり脳の栄養不足は「寝つきが悪い」「何もしたくない」などの精神疲労・うつ状態を引き起こす要因の一つとなるのです。
うつ状態には単なる心の問題だけでなく栄養不足も関係していますので、精神安定のためには、脳への十分な栄養補給が欠かせません。
しかし、食生活のゆがみによって栄養バランスが乱れやすい現代人は、亜鉛などのミネラルが不足する傾向にあります。
精神疲労・うつ状態の改善には、ミネラル・ビタミン・アミノ酸などの補給がとても大切なのです。

脳の栄養不足がうつ状態を引き起こす

うつの原因の95%が食事!?

脳内の情報を運ぶ「渡し舟」である神経伝達物質が不足すると脳の働きが低下し、「やる気が出ない」「よく眠れない」などのうつ状態を生じます。
この「渡し舟」であるドーパミン・セロトニンなどの神経伝達物質は、アミノ酸やブドウ糖を原料とし、ミネラル・ビタミンの働きによって脳内で合成されます。
ところが、インスタント食品のような加工精製食品を食べ過ぎて栄養バランスが偏っている現代の食生活では、神経伝達物質を作るために必要なアミノ酸やミネラル・ビタミンが脳内で不足傾向になります。すると、脳内ではドーパミン・セロトニンなどの神経伝達物質が十分に合成されなくなり、脳内で神経伝達物質が不足して、うつ状態を引き起こしやすくなります。
実は、うつ症状に悩む方の95%は食事内容に問題があり、脳内の栄養が不足していることがわかってきました。このような方が食生活を改善し、アミノ酸・ミネラル・ビタミンをしっかり摂取することで神経伝達物質が充足し、症状が改善することが報告されています。

ストレスを受けると多く分泌されるコルチゾール

私たちは、嫌な思いをする、びっくりするなどのストレスを受けると、副腎皮質からコルチゾールというホルモンを多量に分泌します。コルチゾールは、たとえば危険なときにいつもより力が出て逃げることができるように、一時的に細胞の働きを高めてストレスに対応します。
しかし、ストレスを受け続けてコルチゾールの過剰分泌が続くと、しだいに脳の機能が低下していきます。その結果、やる気がない、イライラする、眠れないなどといった精神疲労やうつ状態が引き起こされます。2004年に発行された医学・医療情報誌「Progress in Medicine」では、うつ状態にある方は血液中のコルチゾール濃度が高いことが報告されています。

「ストレス」は「活性酸素」を発生させる

心理的ストレス、肉体的ストレスを受けると、活性酸素がたくさん発生し、脳内で活性酸素が過剰になると脳機能が低下します。また、脳内の活性酸素が過剰な状態でストレスを受けるとコルチゾールがさらに多量に分泌され、コルチゾール過剰が続くと脳の機能がさらに低下、うつ状態につながってしまいます。
ストレスに打ち勝つには、過剰な活性酸素を消す必要がありますが、そのためには私たちの体内で活性酸素を消す役目を担っている酵素の働きを支えるミネラルの亜鉛やセレンの摂取が重要になります。

亜鉛不足はコルチゾールの過剰分泌を招く

亜鉛不足のエサを与えたラットでは、コルチゾールが過剰に分泌され、うつ様症状を示したという報告があります。また、そのうつ様行動は、亜鉛を補給することによって正常に回復することも確認されています。
一般にうつ状態の方は血液中の亜鉛濃度が低く、うつ状態特有の脳波の乱れが亜鉛の補給によって改善される報告もあることから、亜鉛は抗ストレスミネラルともいわれています。出産後や更年期の女性、血糖値が高い方は亜鉛不足の傾向が強いため、亜鉛不足がうつ状態を生じさせている可能性が指摘されています。