よくわかる-認知症のはなし-

ここはどこ…?いつも通る道のはずなのに…。いま、何時…?
「最近、忘れっぽくなった」「新しいことが覚えられない」という経験はありませんか?
人間は誰でも年齢を重ねると多少の物忘れは出てくるものですが、これは生理的な物忘れであって病気とはいえません。問題なのは物忘れの程度がひどくなって日常生活に支障をきたしてしまう認知症です。

「認知症」と「物忘れ」の違い

大きな違いの一つとして、認知症は記憶のすべてを忘れてしまうのに対し、老化に伴う物忘れは記憶の一部を忘れているという点があげられます。
通常の物忘れですと、旅行のお土産で何を買ったかは思い出せないことがありますが、旅行に行ったこと自体は忘れません。認知症の場合は旅行そのものの記憶が抜け落ちてしまうのです。

老化に伴う通常の物忘れ

物をしまってどこにあるのか分からなくなる
人の名前が出てこないことがある
何をしようとしたのか分からなくなる
じっくり考えれば思い出す
記憶力の低下のみ
物忘れの自覚がある
被害妄想などはない

物忘れと認知症の境界線

蛇口の閉め忘れ、鍵の掛け忘れなどが多い
同じ話を何度も繰り返す
些細なことで怒るようになった
身なりがだらしなくなった

認知症の疑い

少し前のことを全く忘れて思い出せない
年月日が不正確になった
衣服の着脱など簡単な作業に手間取る
探し物が見つからないと「誰かに盗まれた」と言う
時間をかけても思い出せない
物忘れの自覚がない
被害妄想がある

「ボケた」という自覚はあるか

お年寄り本人に「ボケた」という自覚がある場合は、認知症の可能性は低いといえます。
一方、本人はいつもどおりにしているつもりでも、ご家族が「様子がおかしい」と感じる場合は、認知症の疑いが強いので注意すべきです。認知症の識別はこの「自覚」があるかどうかが重要になります。

家族が「おかしい」と気づいた変化

  1. 同じことを何度も言ったり聞いたりする(45.7%)
  2. ものの名前が出てこなくなる(34.3%)
  3. 置き忘れやしまい忘れが目立つ(28.6%)
  4. 時間や場所の感覚が不確かになった(22.9%)
  5. 病院からもらった薬の管理ができない(14.3%)
  6. 以前はあった関心や興味が失われた(14.3%)

※その他、ガス栓の締め忘れ、計算の間違いが多い、怒りっぽくなったなど

認知症のタイプ

認知症は、大きく分けると脳血管性認知症と、アルツハイマー型認知症に分類されます。

脳血管性認知症

脳の血管が詰まったり、破れたりすることによって、その部分の脳の働きが悪くなるために認知症が起こります。ダメージを受けた場所によって、ある能力は低下しますが、別の能力は比較的大丈夫というように、部分的な低下があり、記憶障害がひどくても人格や判断力は保たれていることが多いという特徴があります。

アルツハイマー型認知症

脳の神経細胞が減少したり、変性したりすることで、脳が委縮して記憶障害や急激な人格の変化が起こる病気です。ゆっくりと発症し、徐々に悪化していきますが、本人は病気だという自覚がないのが特徴です。次第に被害妄想や運動麻痺、感覚障害などの症状があらわれ、さらに時間、場所、人物の判断もつかなくなってしまいます。

認知症と生活習慣病

脳血管性認知症は、脳梗塞などが原因で発症しますので、脳梗塞の原因となる高血圧、高脂血症、糖尿病などにならないように普段の生活習慣に気を付けなければなりません。特に動脈硬化による細かい血管の梗塞(微小梗塞)は若い世代でも多く発生しているので、中高年以降は血管を詰まらせないような生活習慣、食事に注意する必要があります。
一方、アルツハイマー型認知症は、その原因となるものにいろいろな仮説がありますが、断定できるまでには至っていません。しかし、近年の研究により、動脈硬化を中心とした高血圧、高脂血症などの患者がアルツハイマー型認知症を併発するリスクが高い(高血圧患者は2.3倍、高脂血症患者は2.1倍、両方を併発すると3.5倍)ことから、アルツハイマー型認知症も生活習慣と深い関連があると考えられています。
また、水分を十分とることも大切です。加齢とともに腎機能が衰え、水分の排出量が増大する一方、のどが渇くという感覚が鈍くなります。このため血液がドロドロになりやすく、脳の血管が詰まりやすくなってしまうのです。できれば1日1.5リットルくらいはとりたいものです。そして運動やストレス解消も脳に良い刺激を与えることが分かっていますので、軽めの運動や趣味などを日課にしましょう。
このように認知症の原因は違っていても、生活習慣の改善がその予防につながるといえるでしょう。

脳は使わないと衰える

高齢になっても活発な人や好奇心の多い人は脳の老化が進みにくいものです。脳の神経細胞は加齢とともに減少しますが、頭をよく使うことで神経細胞の減少を抑え、脳内のネットワークがより発達すると考えられています。
逆に1日中テレビばかり見ている人、友人や家族との交流が少なく、ほとんど外出しない人などは脳の老化の速度が早いといわれています。特にお年寄りは家に閉じこもりがちになるので注意しましょう。
加齢に伴う記憶力の低下は避けられませんが、年をとったからといって新しく覚えることをあきらめてしまうことは、脳をさらに老化させることになりますので、常に脳を使うことが大切です。

読み・書き・計算

手軽に脳を鍛える方法としては「読み・書き・計算」が効果的です。まずは毎朝、新聞を音読してみましょう。1日5分~10分間でも構いませんので、毎日のニュースや興味のあるものなど、どんな記事でもよいので声に出して読んでみてください。次に音読した記事の感想をノートに書き出しましょう。計算は買い物のレシートなどを利用して毎日、家計簿をつけるなどしてみましょう。
大切なことは記憶や計算ができたかどうかではありません。トレーニングすること自体が脳の老化を予防し、脳内のネットワークを広げることにつながるのです。

栄養・運動・睡眠の改善を!

認知症は未だに良い治療法が確立されていません。それだけに、早期発見・早期治療を心がけることが重要となりますが、最近の研究によると、生活習慣の改善により認知症は予防可能であることが分かってきました。その研究の一つに茨城県利根町で行われた「利根プロジェクト」があります。このプロジェクトは筑波大学の朝田隆教授らのグループが、認知症の早期発見と、発症を遅らせることを目的として実施したもので、一般の方を対象に栄養・運動・睡眠の3つの要素について追跡調査しました。
調査では積極的に栄養・運動・睡眠に取り組んだグループとそうでないグループを比較しました。その結果、3年後に認知症になった確率をみると、生活習慣を改善しなかったグループの方が1.4倍も高いことが分かりました。また認知機能においても生活習慣を改善したグループの方から良い結果が得られました。こうした結果から、栄養・運動・睡眠の3つの習慣を改善すると、認知症の予防に効果があるということが分かったのです。
この調査で実施した生活習慣の改善とは、栄養面では神経細胞の活性化に役立つとみられるEPA、DHAと、イチョウ葉エキス、そして抗酸化作用のあるリコピンの摂取、運動面では有酸素運動(軽い負荷運動)、睡眠については短時間の昼寝です。
認知症の発症メカニズムに関しては、まだ明確に解明されていない部分もありますが、少なくともその予防に関しては、栄養・運動・睡眠の改善が重要なカギを握っていることから、「最近、物覚えが悪くなった」などと気になる方は、ぜひ生活習慣の改善に取り組んでください。

食習慣からみたアルツハイマーの予防

偏食、過食、小食を避ける

アルツハイマー型認知症の患者の食事内容をみた調査によると、食事パターンにある特徴がみられます。最も多くみられた特徴が偏食です。魚と野菜が嫌いという人が多く、肉を好むという傾向がありました。また動物性脂肪や菓子類を多くとっていることと、ビタミンCやリコピン、カロテンなどの抗酸化成分の摂取量が少ないという傾向もありました。この傾向は脳梗塞になった人と良く似ています。

酸化、炎症、動脈硬化を抑える

アルツハイマー型認知症の発症や進行には、いくつかの危険因子が関与していると考えられており、食事で予防することが可能です。

抗酸化成分

神経細胞が活性酸素によって酸化されることで減少、死滅してしまいます。神経細胞の酸化を防ぐにはビタミンCやE、リコピン、その他の抗酸化成分を多く含む食材をとる必要があります。緑黄色野菜、果物などを多くとりましょう。

神経細胞の原料

脳に老人斑と呼ばれるシミができ、その部分に炎症が起きて神経細胞が死滅すると考えられています。神経細胞の原料となるDHAには、神経細胞を保護する働きもありますので、DHA・EPAを多く含んでいる青魚を食べる習慣を身に付けましょう。

食生活の改善

高血糖、高脂血症、高血圧が動脈硬化の重大な危険因子です。動物性脂肪、アルコール、甘い物、塩分などのとりすぎは動脈硬化を引き起こす原因となりますので、控えめを心がけましょう。